Eternal wonder
なごみまくりの徒然日記。暇つぶしにどうぞ。

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環の始まり                 

カーライルは一人、まぶたをゆっくりと閉じた。
眠れぬ夜でも、そうしていえば人間らしさを保てると彼は信じていた。いや、すがっていたのかもしれない。それしか信じられるものはなかったから。
ことりとも音のしない空間に、ゆるやかな光の線が、カーテンの隙間から舞う。
そうやって、朝を何度迎えただろう。
孤独に耐えるのは、もう慣れた。
吸血鬼にとって、人間と近づきすぎるのは危険だ。
人を殺めるぐらいなら、自分ひとりで孤独に耐える方を選ぶ。
そして、今のところはそれも上手くいっていた。
何年か前、イタリアの吸血鬼たちと出会い、そこで少しの間滞在した。
彼らは、あらゆる吸血鬼の中でも特に高貴で誇り高い者たちだった。
彼らの生活は素晴らしいものだったが、どうしてもカーライルには真似できなかった。
それは"菜食主義"に反するから。
彼らのような絆が欲しかったけれど、カーライルは諦めた。
――それでも。彼は己の運命を信じることをやめなかった。


エズミと出会ったのは、エドワードを救ってから何年か後だった。
死の淵を彷徨っていてもなお、彼女の頬にはやわらかい輪郭とかすかな微笑みが消えなかった。
青ざめた頬には、少しの涙の後が見てとれる。
カーライルは、その優しさに満ちた表情に、一瞬の間心臓がどくんと動いたような錯覚を起こした。もう、止まっているはずの心臓が。
医者としての直感から、もう彼女の命はまもなく尽きるだろうということがすぐにわかった。
「エドワード」
そばにいて、悲しみと戸惑いを隠せずにいる息子に、思わず視線をやった。
彼女――エズミは、この子のこともかわいがってくれるのではないだろうか。
本当の息子のように。
なぜ彼女が崖から飛び降りるなんてことをしたのかはわからない。
でも相当つらいことがあったのだろうとは推察できた。
「お前は・・・彼女のことを救うべきだと思うか?それとも安らかな死を与えるべきか?」
半ば独り言のようにカーライルはつぶやいた。
エドワードは戸惑ったように、美しい眉を上げた。
「どうしてぼくに聞くんだ?」
「お前が決めるんだ、エドワード」
カーライルは質問には答えず、静かな口調で言った。
エドワードは黙ってエズミの顔を見つめた。
何時間にも思える時間がたった後、エドワードはつぶやいた。
「・・・この人が母さんになるんだね」
驚いたように、カーライルは息子を見つめた。
「本当にそれでいいのか?お前は我々に死後の世界はないと考えているんだろう。彼女を本当にそんな世界に連れ込んでもいいと?」
「でもエズミのことが好きなんだろう?」
彼はその一言で、すべてを決定した。


「・・・エズミ」
名前しかわからない、でも誰よりも愛おしく思っている彼女にそっと呼びかける。
「大丈夫かい?痛みは?」
キャラメル色の美しい巻き毛の彼女は、その声にうっすらとまぶたを開いた。
「あなたは、誰・・・?」
「私は医者のカーライルだ」
そして、吸血鬼でもある、と心の中で付け加える。
「あたしの体に何があったの?あたしは・・・死んだはずなのに」
一人で呆然とつぶやく彼女が、まるで変身したことに気づいていないようなのに驚く。
「どこか、体がおかしくないかい?」
探るように訊ねると、突然彼女は体を強張らせた。
「あなたが何かしたの?」
その何かがわかっているような、非難が込められた口ぶりに、思わずたじたじとなる。
ここは単刀直入に言った方がいいと判断したカーライルは、深く息を吸った。
「実は・・・私は吸血鬼なんだ」
しばらく沈黙が続いた。
「エズミ・・・?確かに、信じられない話だろう。でも、決してふざけてるわけでは」
ないんだ、と言おうとした瞬間に彼女が口を開いた。
「それで、あたしも吸血鬼になったのね?」
「えっ」
疑問形にはなっていたが、ほぼ確信を持った言い方に、思わず戸惑ってしまう。
「違うの?」
「いや、正しいけれど・・・どうしてわかったんだい」
「もしあたしが人間だったら、あなたはあたしに襲い掛かるはずでしょ?」
決まりきったことのように平然としている彼女に、カーライルは少し唖然とした。
「はぁ・・・まぁそうだが、君はあんまり驚いてないみたいだ」
エズミはその言葉に、目をしばたいた。
「そう、かしら。でもあの痛みの意味がわかったわ。あのときあたしは吸血鬼になったのね」
少し感慨深げにつぶやくエズミに、カーライルは戸惑った。
「それに・・・あたしにはもう人間でいる意味はなくなってしまったから」
そこで初めて、エズミの瞳が陰り顔が泣きそうにゆがむ。
「あの、もし良かったら何であんな真似をしたのか教えてくれないか?」
「構わないけれど・・・後にしてもいい?私、今すごくおなかが減ってるの。どうすればいいの?もしかして・・・人を殺すの?」
少しおびえたような表情を浮かべたエズミは、不安そうに言った。
「あぁごめん。忘れていたよ。変身直後はのどの渇きがひどいということを」
カーライルは苦笑した後、一転して真面目な表情をした。
「吸血鬼は血を飲まなければ生きていけない。でも、少しでも人間らしくいることは可能だと、私は思っているんだ。だから・・・人は狩らない。我慢すれば、動物だけでも足りるから」
「本当に足りるの?」
「たいていの場合は。君の場合はまだ変身したばかりだから、きついかもしれない。でも、できるだけ私やエドワードがサポートする」
自信を持った口調に少し安心したのか、エズミは遠慮がちに笑みを浮かべた。
「わかった。人の血を吸うのが怖かったの。ありがとう」
次の瞬間、エドワードが部屋の中に立っていた。
「話は一段落ついた?」
「あぁ」
「じゃぁ食事に行こうよ。おなか、減ってるでしょ?」
後半の部分の質問に、エズミはこっくりと頷いて、二人の後に続いて森に向かった。


森は沈む夕日の光を浴びて、オレンジ色に染まっていた。
「すごく・・・のどが渇いてるような感じがする」
エズミの言葉に、エドワードは戸惑ったような顔をした。
「珍しいな。普通は血への欲望がすごいのに」
「欲望って?」
「変身の直後は、のどの渇きがひどくて、獲物がすぐそばにいる場所ではすぐに襲い掛かるぐらいが普通なんだ」
横からカーライルが説明を添える。
「のどは渇いてるけど・・・でも何だか怖くて」
エズミは恥ずかしそうにつぶやいた。
「動物たち、ううん獲物に襲い掛かるなんて、ちょっと考えられないの。かわいそうっていう気持ちが強いのかしら」
ためらいながらも言ったエズミの言葉に、エドワードは驚いたように目を見開いた。
「かわいそう?」
「そう。おかしいわよね。人間だった頃だって、動物はたくさん食べていたのに。不思議」
「人間だった頃も、きっと優しい性格だったんだな」
エドワードの言葉に、エズミは首をふった。
「そんなことないわ。普通の人間よ。子供は大好きだったけれど」
「そうかな」
美しい赤みがかった金髪のエドワードが、憂いある表情を浮かべてつぶやく。
「きっといい母親だったはずだけどな・・・母さんは」
エドワードは首をすくめて、狩りの場へ去っていった。
何気なく言われた言葉に、どきんとする。
この子は――エドワードはあたしの新しい息子なんだ。そう思うと、止まっているはずの心臓があたたかくなったような気がした。


「吸血鬼は、人間では考えられないことがいくらでも出来る。たとえば、ものすごいスピードで走ったり、重いものを持ち上げたり。それに、呼吸もしなくていい」
食事が一通り終わると、カーライルはエズミにいろいろと説明をした。
「吸血鬼なんて、今まで夢物語だと思ってた。現実にいるわけがないって。でもまさか自分がそれになるなんて、思っても見なかったわ」
苦笑気味につぶやいたエズミは、ぼんやりと空を眺めた。
「どうしてあたしを吸血鬼にしようと思ったの?」
カーライルは少しの間、言葉につまった。
「・・・わからない。でも、君のことをあのまま死なせるなんてできなかった」
切なげに自分を見つめてくる、吸血鬼とは思えない優しい瞳に、エズミは少しドキドキした。
「あの子――エドワードも?」
「エドワードは、何年か前に病院で死にかけているところを変身させたんだ。初めての経験だからよくわからなかったんだが、それでもあの子を変身させたことに後悔はないよ。今まで一度たりともね」
「とても・・・勇気があったのね」
エズミは寂しげな目をして、暗い森の中を見つめた。
「仲間が欲しかったんだ。とても孤独だったから。でも、それだけじゃない。エドワードの母親のこともあった」
「エドワードの、お母さん?」
「あぁ。彼女はエドワードより先に亡くなった。最後に意識があったとき、彼女は私にエドワードを助けるように頼んだ、いやあれは命じたという方が近いかな。どんな手を使っても救うように、と。それで決心したんだ」
「彼女の気持ちが私にはよくわかるわ」
そうつぶやいた後、エズミは唐突に言った。
「私は子供を亡くしたの。たった一人の、初めての赤ちゃん」
「それは・・・」
「とてもつらくて・・・耐えられなかった」
冷静な口調の中に、自嘲的な響きがあることに気づいたカーライルは、黙ってエズミの肩に手を回した。まるで何年も前からその動作は当たり前だというように。
「だから絶壁から身を投げたんだね」
かすかに聞こえるかどうかの声で、カーライルはささやいた。
「そう。でも今私は幸せな気分でいられる。エドワードやあなたがそばにいてくれるから」
微笑みを浮かべながらエズミはつぶやいた。
「あの子を失った悲しみは大きいけれど、あたしにはもう新しい家族がいるもの」
「どんなときも君のそばにいる。一人にはしない。約束するよ」
カーライルはそっと言った。
「大げさね」
エズミは苦笑しながらもささやいて、彼の頬にゆっくりとキスをした。


トワイラ新刊祝い!カーライルエズミとエズミの出会いってこんな感じだったのかなーと想像。きっとカーライルの一目ぼれだったんだよ(笑)

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